前田大和とかいう選手を応援して来て良かったという話

2020横浜開幕丨NEW GENERATION IS HERE.
 
「あと何年野球が出来るかわからない」
 
2020年、開幕時に公開された動画で彼が語っていた言葉が頭から消えないのは、
2020年、阪神時代から応援してきた前田大和という一人の野球選手が、今までとはどこか「違う」姿を見せているからなのかもしれない。
 

▼「センター」「セカンド」大和に痺れた阪神時代

2005年の高校生ドラフト会議。
当時阪神タイガースの監督を務めていた岡田彰布氏の一声もあり、ドラフト四巡目で指名された大和選手。ちなみに、この年は高校生と大学・社会人でドラフトが分かれており、四巡目とあるが指名順としては「最後」の選手。ちなみに、阪神がこの年に指名した選手で現役を続けているのは、大和選手と岩田稔選手の二名だけだ。
 
阪神時代は、球界屈指の守備力にスポットが当たり、主にセンターやセカンドでチームのピンチを幾度となく救った。抜けると思った当たりが抜けない、そんなシーンを数えられないほど大和選手は見せてくれた。
また、大和選手のすごいところは、内外野共に守備力がずば抜けているところだ。チームや試合状況に応じて、どのポジションでも安心して守備を任せられる選手であることは間違いなく、大和選手レベルのユーティリティーさを持つ選手は、そう多くはないだろう。
 
なお、玄人好みの守備をするイメージは少なからずあるようだが、個人的な印象としては広島の菊池涼介選手に近く、身体能力を存分に発揮してボールを取りに行くような、芸術的な守備を披露する選手だと思っている。(その分、凡ミスも目につきやすいけど…)
もう少し若い時に内野手として活躍出来ていれば…という気持ちはあるが、それが叶わなかった理由はただひとつだった。
 

▼課題を克服しきれなかった阪神時代

大和選手の本職はショートだが、当時の阪神のショートには、鳥谷敬という偉大な選手が君臨していた。2010年代後半にかけて加齢による衰えを隠せなくなった部分はあるが、全盛期の守備力は大和選手にも劣らない一級品のもので、打力もトップレベル。大和選手が鳥谷選手を脅かすには、打力の差が歴然としていた。
 
加えて、チーム全体が攻撃面に課題を抱えていた点から見ても、
守備が上手くても打てない選手を使い続ける余裕は、阪神というチームにはなかったのが現実だ。
スイッチヒッターに挑戦した2017年には過去最高の打率.280を記録したが、
65本のヒットのうち長打が7本(6本が二塁打、1本が本塁打)であった点から、
その非力さがスタメンとして起用する難しさを物語っていた。
 

▼「ショート」大和は、僕の知る大和ではなかった

2018年。
彼のホームグラウンドは甲子園から横浜スタジアムに変わる。
多くの阪神ファンが悲しんだ、FA移籍という事実。
当時阪神ファンだった僕は阪神を応援しつつも、大和選手の試合はチェックしようとDeNA戦を見るようになっていった。
 
正直、大和選手がレギュラーとして起用されるとは、誰も思っていなかっただろう。
当時、ショートには倉本寿彦選手がおり、セカンドには柴田竜拓選手がレギュラーの座を掴みつつあった。僕自身、守備固めや先発が左投手の時のスタメンで見るくらいだろうと思っていたが。
 
2020年。
いまだに大和選手は、ショートストップの座を守り続けている。
ここ、という場面での好守備はもちろん、勝負強いバッティングにも、磨きがかかっている。加えて2020年は長打も出るようになり、阪神時代にはない思い切りの良さが感じられる。
とはいえ、この2年を見ているとかつて阪神時代に見せていた圧倒的な守備力というものは、影を潜めているように見える。特に今年は三遊間の打球の処理や送球が不安定で、加齢による衰えか怪我の影響があるのかと推測してしまう。
ショックはショックだ。でも、ファンのショックなんて、たいしたことない。
「昔ならあの球はアウトに出来てただろう」という当たりがファンでもわかるのだから、本人もこの違和感には苦しんでいるはず。2018年の開幕戦、何でもないショートゴロをエラーした彼自身が、自身の守備に対する不安を語っていたのだから、当事者にしかわからない狂いが存在しているのは事実だろう。
 
それでも。
FA移籍時、30歳という年齢で「ショート」という難しいポジションへ挑戦したことが、大和選手を応援したいと何よりも感じる部分なのだ。ベテランとはいえ、一軍でのショートとしての出場経験はさほど多くない点を踏まえると、大和選手はショートというポジションでさらに成長を続けているに違いない。
 
そもそも元々フルシーズンを戦えない体力の無さが指摘されていた選手が、2019年は一軍に帯同し続け、規定打席に到達。過去最高の出場機会を得ただけでもすごいじゃないか。ファンとしては最高に嬉しかったし、大和選手が野球人としてもう一花咲かせたような気がしてならなかった。
 
そうして、1000試合出場も達成し、まだまだ進化し続けていく彼の姿を追ううちに、応援するチームがすっかり変わってしまっていた。
 
ああ、この選手はこんな風に笑うんだな、と。
そんな笑顔を見せてくれるこのチームは、最高の場所なんだな、と。
 

▼「打者」大和の新しい姿

今シーズンも20試合程度を消化した。
今シーズン、大和選手は3割近い打率をキープしており、例年になくバットが振れている。
既にホームランも放っており、長打力を増したバッティングにはどこか「吹っ切れた」印象がある。
 
個人的に、大和という選手は器用ではないと思っている。
阪神時代は小技や右打ち、打席での粘りを求められることが多かったが、先述の通り今の大和選手は、思い切りのいいバッティングをしているように見える。
宮崎敏郎選手からはバッティングについてアドバイスを貰っているようで、その効果がしっかり出つつあるのだろう。さらに2019年シーズン終盤にはラミレス監督からフォーム指導を受け、こちらも2020年シーズンには結果として現れている。「打てる」という自信が少しずつ増しているような気がして、その印象は、少なくとも阪神時代にはなかったものだ。
 
そして同時に「打たなければ生き残れない」という危機感もあるのだろうと推測してしまう。
 
今後、大和選手は「控え選手」としての時間を多く過ごすことになるだろう。
セカンドやサード、ひいては外野手としての守備固めに回る戦力としては申し分ないが、
やはり野球には「打力」が付いて回る。
 
ただ、もし今シーズン、大和選手が3割近い打率をキープ出来れば、来年以降の起用法はより柔軟になるだろう。
これまでは「打てない」ことで起用法が狭まっていた選手。「打てる」のであれば、代打としての活躍も期待できるかもしれない。
 
それに、彼はもう、横浜DeNAベイスターズの中心選手の一人なのだ。
 

▼「大和」というプレイヤーの存在感

新キャプテンに就任した佐野恵太選手や、柴田竜拓選手などのインタビューでの発言から、
DeNAに移ってからの大和選手は、「先輩」としての姿を見せてくれている。
そこからは大和選手が、DeNAというチームに成績以上の良い効果をもたらしたのでは、と思わずにはいられない。
 
開幕時のポスターには、センターに居る佐野選手の後ろに、大和選手は映っていた。
その時、「ああ、大和はもうDeNAに欠かせない選手なんだ。。。」と確信した。
 
もしかすると、あんな大きいポスターに映るのは最後かもしれない。
それでも、ならば今年は。
今までにない、これ以上にない、彼の最高のプレーを見たい。見続けたい。
ショートでのゴールデングラブは獲って欲しいし、日本一の栄冠を掴んだ輪の中に居て欲しい。
後輩に簡単にショートの座を奪われないで欲しい。
今居る場所で、無くてはならない存在で居続けて欲しい。
チームの勝利に貢献し続けて欲しい。それが、試合に出る、という形でなくなってしまっても。
 
贅沢な願いと共に、僕はこれからも、前田大和という選手を応援し続ける。