世にも奇妙な物語 22.夏の特別編 総評

世にも奇妙な物語 22.夏の特別編
終わってしまいましたね…

総評を書く前からテンション上がってます…今回めちゃくちゃ面白くて、久々に「大満足」の回になりました。

感想は熱いうちに…ということで、各作品について総評を述べていきます。

 

【オトドケモノ】
先日「面白いけど『奇妙』として見ると物足りないかも」と記事を書いた作品です。
なお、原作が「つまらない」と思っているわけではなく、一つの作品としてはめちゃくちゃ面白いけど、奇妙マニアが唸る作品になるにはもう一味あると…というのが僕の所感でした。

ドラマ版は、中盤まではほぼ原作準拠。後半はオリジナルの展開でした。
一話目として見た印象は「結構面白いじゃん!」だったのですが、後続の二作の狂気っぷりも相まって、相対的に見れば大人しいところに落ち着いたかな、と。
また、マニアの目は誤魔化せないというか…脚本や演出の細かい粗は見えてしまったので、消化不良は否めませんでした。

◇放映時間の長さ問題が露見した作品
後続の『何だかんだ銀座』『メロディに乗せて』が良かっただけに、『オトドケモノ』は冗長さが際立ってしまいました。Twitterでは、「演出がタルかった」と呟きましたが、そうせざるを得ない状況だったのかな、とも。
以前もブログには書きましたが、四話すべての放映時間のバランスは、もう少し均等にしてほしいな、と。『電話をしてるふり』くらいの短さがちょうど良かったりもするので。

憶測でしかありませんが、「パートナーが主人公を裏切った」オチで止めておきたかったのが制作側の本音だったりしないかな、と。オチを付け足したうえで納得感のあるエンド、という意味では、あそこで終わっておくと「いいじゃん!」になったはず…では?

◇「納得できない」要素はなるべく避けたい
実は、先日の記事で「主人公がお姉さんに変わって配達員になる」という展開もアリなんじゃないか、と僕は書いていたんですが…っぽいオチになりましたね笑

kerokerokarol.hatenablog.com


僕はあのオチ結構好きでした。主人公の復讐、とまでは行かないけど、抜け駆けしたパートナーからすると、ゾッとしますよね。

ただ、配達員のお姉さんが沢山居るという演出は個人的には無くて良かったです。
アレをしちゃうと、主人公が配達員になる意味が一気に低くなっちゃいますよね。サービスを運用する会社が、わざわざ主人公を雇うメリットもわかりませんし。そこの種明かしをせず、元パートナーの元に配達員として舞い戻る…という展開であれば、もう少し印象は変わったかな、と。あれで主人公が「異空間から出られて良かった」という起点を効かせたアイデアになるかと言われたらそうでもありませんし。復讐のために「俺と変わってくれないか」ってニュアンスの方が、しっくり来たかもしれませんね。

また、離婚するくだりも、二人は離婚届をどうやって出すのかなとか思っちゃったりして…まあ、見てる最中はパートナーが「嫌なやつだなあ」と思ってたのでそんなに気にしていなかったのですが笑

先日の記事と反することを書きますが、原作はほぼ納得感のある展開であり、オチへの言及も「『奇妙』だと飛び道具感出ちゃうかも」くらいの気持ちだったので、そういう点では、原作の方が面白かったかもしれませんね…。

◇1話目としてはお手本のブラック系作品
とはいえ、世にも奇妙な物語には必要なブラック系の作品が初っ端から登場するのは良いですね…!
北山宏光さんをはじめ、演者の方々は最高でした。
あと、この手の作品で気になっちゃうアプリのデザインもシンプルで気にならなかったので、同系統の作品はこの作品を基準にして作って行って欲しいなあ、なんて思います。

 

【何だかんだ銀座】
各所から「問題作」なのではと声が上がっていた一作。箱を開けてみれば、令和奇妙断トツの名作でした。

シュールコメディで進んでいくのかなと思いきや、最後の一味が中々パンチがありまして…。全部含めて『世にも奇妙な物語』というブランドでしか叶えられない作品だと思います。見てない人は、今すぐTVerかFODで見てください…と言いたいところですが、TVerの方は終わっちゃいましたね…。

◇ペットは正しく飼いましょう、というお話
それが、ニホンオオカネモチ、という突拍子もない存在に変わったことで、全部可笑しくて笑ってしまいました。
で、この作品、僕が名作クラスに押しあがった理由は、ニホンオオカネモチ(会長)が大人になった主人公を飼う(働かせる)側になり、立場が逆転する…あのオチだと思っています。
もちろん、シュールコメディで突き通し、最後は再会してハッピーエンド、でも、十分まとまっているでしょう。しかし、立場が逆転した瞬間、物語に散りばめられていた点が線になったんですよ。
良く考えてみてください。ペットを捨てた、という点を見れば、あのオチって因果応報な展開としてはピッタリなんですよ。ニホンオオカネモチという存在が、そういう概念を忘れさせただけで。
また、「悪いのは親の方では」という指摘も当然あると思いますが、会長の視点で見れば、主人公を我が物にするのは、ある種の人質とも取れるなあと。この先の展開を考えると、結果的に主人公の両親への復讐も叶えられそうなので、僕としては納得できるオチではありました。

◇有田さんと植田監督でなければ成立しなかった
ただ、この作品って、難しいポイントが随所にあったなあと。

まず、「この作品は突拍子もないシュールコメディですよ」と持っていくに当たって、配役は最重要課題だったのではと感じています。
針の糸を通すような難しいテーマの中、「ニホンオオカネモチ」役がくりぃむしちゅーの有田さんだったのはベストアンサーだったなと。
予告の際、「変な作品を」「有田さんが主演でやる」というだけで、マニア的には期待感が上がりました。芸人さん主演回は、僕の思う限りでは大当たり回が多いイメージですし(最近だと、板尾創路さんが主演されていた『ソロキャンプ』とか)。また、有田さんならドラマにもしっかりハマってくれるだろうなと。演技が下手な方がやっちゃうと、それはそれで残念感が出ちゃうのでね…。

とはいえ、作品としてはニホンオオカネモチをどう演じさせるか、が鍵を握っていました。変に喋らせるわけにはいかないし、かといって、動きが大きすぎると過剰過ぎて白けちゃう。最後に喋らせる展開についても、「株主総会がある」等、「ニホンオオカネモチ」自体が何かしらの社会生活を送っている事前情報があったので許容出来ましたが、それがなかったら「どうして喋らせたんだ」と納得いかない展開になりそうだったな、と。

しかし、実際見てみると、ストーリー・演出共に難しいところをクリアしているように感じました。
突拍子もない展開が「さも日常にありそう」に感じてしまう導入。
良い話になりそうな展開でありながら笑ってしまう設定の強さと小ネタの数々。
そして、それまでの展開を大きく覆すブラックなオチ。
令和奇妙の代表作『恋の記憶、止まらないで』に負けないパワーがあったなと。

で、こんなじゃじゃ馬作品を飼いならしたのは、植田監督だからこそだとマニア的には感じております。

◇オチのどんでん返しと納得感は令和版『おばあちゃん』
世にも奇妙な物語』シリーズでは「オチにどんでん返しが来る」作品の印象をお持ちの方は多いはず。僕等世代(30歳前後)だと『おばあちゃん』という作品が、それの代表かなと思います。
この作品、病床に伏していたおばあちゃんとその孫が身体を交換し、おばあちゃんの願いを叶えるために互いに奮闘する感動的な作品…かと思いきや、最後の最後でとてつもなく後味の悪い展開となる、名作中の名作です。

ただ、『おばあちゃん』以降、どんでん返しを狙おうとして、それがぴったりはまらない作品がちらほら現れ…「どんでん返しって難しいんだな」という感覚がファンの間には流れるようになりました。
『何だかんだ銀座』は、『おばあちゃん』程のインパクトを残したわけではありませんが、「感動物で終わらせといて良かった作品」という評価にならなかったのは、『おばあちゃん』同様、復讐する側に復讐してしかるべき材料があったからだと思います。

オチに失敗した作品、という意味では前回の秋の特別編の『ふっかつのじゅもん』が挙げられるかなと。
セーブデータが消えることで、お互いの記憶が消し飛んでしまうギミック自体は理解出来たのですが、ストーリー上でギミックを示唆する展開がなかった(あった場合、それが上手く伝わらなかった)うえ、感動的な展開が完了しており、主人公が罰を受けるような展開にはなっていませんでした。ドラクエとのコラボ作品ということもあり音楽の使い方は絶妙で、上手くやればトラウマ級の作品になっていたかもしれませんが、これも結局は「オチに納得のいかない」作品止まりでした。

その点で、『何だかんだ銀座』のあのオチは「ブラックなオチキター!!!!!」と、後味の悪さに反してめちゃくちゃ興奮してしまいました。
今後も、どんでん返しは欲しいですが、「納得感のある」オチを大前提に、ストーリーをくみ上げてもらえると嬉しいなと思います。
(とはいえ、想像できない突拍子もないオチも大好きなんですけどね。「期待」さえ裏切ってくれなければ、何でも来い!です)

 

【メロディに乗せて】
衝撃の問題作の後に登場した、これまた問題作。
この時点で胃もたれがやばかったです笑

◇まとまりのある「アホらしさ」
企画会議中に笑点のBGMが流れたり、主人公が襲われそうになっている展開でドラえもんのBGMが流れたり。
『何だかんだ銀座』に負けず劣らずの展開がたまりませんでした。
とはいえ、これも主人公が抱える病気(脳内メロディ症候群)と葛藤するための適切なスパイス。
加えて、どんなオチになるかがわからない、ハラハラドキドキの展開が続くのがたまりませんでした。もちろん、マニアならあの展開になることは読めていたかもしれませんが…。

◇奇妙のツボを押さえたストーリーと、スタッフの世代が見える選曲
今作、『何だかんだ銀座』の影に隠れて、かなりぶっ飛んでますよね。
頭に流れる音楽に合わせた行動をしないと死んじゃう…なんて。
主演の生田絵梨花さんの演技もピッタリですし、ストーリーもばっちり。
クスクス笑える展開、ホラー気味の緊張感あるシーン、彼氏と共に悩みを乗り越えようとする感動的な流れで進むかと思いきや、主人公に付きまとっていた男の登場で一気にサスペンス色が強くなった終盤戦。そして、運命に抗った主人公が彼氏に裏切られる不条理さ。申し分のないお話でしたが、それを「新しい世代」の感性でくみ上げているのが伝わってきて感動しました。
お医者さんの演出や、FFをはじめとするサブカル系寄りのBGM…スタッフの中にニコニコ動画で育った人が居るんじゃないか、そう思った人はマニアにも多かったはず。

こういうのって、「知らない」と出来ないと思うんですよ。
奇妙ブランドが32年も続く中、スタッフの世代交代は僕等視聴者が見えないところで緩やかに進行しているはず。「昔の奇妙が良かった」「だから昔のスタッフを使え」って言っちゃう人も居ますが、それは「ブランドの終焉」に繋がると思います。
故に、新しいものが垣間見える瞬間を、僕はファンとしては大事にしたくって。
今回の奇妙のプロデューサーである中村亮太さんの狙いもピッタリハマっていた作品だと思うので、今後の期待をさせてくれる一作になったと感じます。
ホント面白かった。生ちゃんの「シャープペンシル~~~」最高でした。

 

【電話をしてるふり】
これまでの3作が
「カレー!!!!」
「カツカレー!!!!」
「ハンバーグカレー!!!!!」
みたいな感じで来ており、大人しく終わってくれるデザート的作品を待っていました。

原作を知っていたので安心して臨めたのですが、見たらやっぱり泣いちゃいました。BKBさんすごい。

◇マニアが求めるテンポの良さ
本作に関しては、「まとまっている良作」という感想になり、多くを語るタイプの作品ではないかと。
個人的には、奇妙作品であまり良い思いをしないポジションで登場している印象がある森口瑤子さんが、良いお母さん役で良かったなとか、そういうところが気になっちゃって笑

ただ、15分程度で終わる、すっきり見れる展開はマニアにとって求めている作品だなと再確認しました。
編成上、4話構成になってからは「作品の中だるみ」を指摘され、作品のボリュームもバラツキがあるので、モヤモヤするところは結構ありました。
なので、理想はこのボリューム感の作品3作と、20分程度の作品2作、計5作だなと。
特別編を見れるだけでも嬉しいのですが、ここだけは譲れない…!

 

【総評】
今回はゾクゾク感のある作品もあり、かなり楽しめた特別編でしたが、去年よりもストーリーや演出に「納得してもらえるような意図」を僕は感じました。
昨年の特別編は全体的に脚本と演出のバランスに違和感があり、「何を見せようとしているか」が今一つ釈然としないものもあって。
ただ、そこの課題が結構クリアできている印象はありました。
マニアの間では評価が割れていそうな『オトドケモノ』も、去年の特別編に組み込まれていたら相対的に上位に来そうな出来栄えだったかと思うので、全体的な満足感はかなり高かったです。

 

ストーリーテラーについては今回は河野圭太監督が演出、脚本は『オトドケモノ』の荒木哉仁さんが担当。(だったと記憶してますが間違ってたらすみません)

近年はテラーにも明確な意図を感じますよね。ちなみに、『電話をしてるふり』のテラーはゾクっとしました。

 

マニア的な要望を挙げるとしたら、「ベスト」を目指してほしいな、と。難しい要望ですし、スタッフの方々が目指してないはずないんですけどね。

例えば、『メロディに乗せて』のオチは、エンドロールで使って欲しかったなと。で、作っている人たちがそこに気付かないことって恐らくないと思うので、編成の都合でしかないと思うんです。
ただ、クリエイターとしてはベターなものではなく、ベストなものを作りたいし、見せたいという気持ちがあるはず。
大人の事情でベストへ至るのが難しいのは本当に勿体ないので、そこの突破口が欲しいなと。

加えて、植田監督や城宝監督といった、奇妙シリーズの中期以降を支えている監督の次世代の面々がそろそろ見えてきて欲しいところですね。

昔だと『何だかんだ銀座』『メロディに乗せて』辺りって、誰が撮っても成立してたんじゃないかなと。
ただ、マニアの方々はそれぞれ「植田監督じゃなかったら」「城宝監督じゃなかったら」という心配をしていたんじゃないかなと思います。

近年は『フォロワー』『優等生』の山内大典監督や、『マスマティックな夕暮れ』「永遠のヒーロー』の紙谷楓監督、『配信者』や今回の『オトドケモノ』を担当された渕上正人監督など、新しいスタッフさんも入って来てはいますので、次回の特別編では新しいスタッフさん中心の回も多いといいな…と期待しております。

 

色々書いてきましたが、今回はどれも本当に面白かったです。
秋の特別編も確定しているようなので、楽しみに待っております。

 

最後に、関係者の方々、素晴らしい作品を世に生み出してくれて本当にありがとうございます!!!お疲れ様でした!!!