進塁打と大和おじさんの得点圏の強さについて
ノーアウトで、ランナーは一塁。
ここで次のバッターがランナーを進めずにアウトになった時、解説やファンで「せめて進塁打を打つべきだった」と言う方がいます。
僕はかねがね、この言葉に疑問があります。
進塁打を打つことが目的になっていないかと?
以下、特にデータには基づかない、僕の持論を聞いてほしいです。
◆ 進塁打を目的にしてはいけない
進塁打のメリットは、アウトになってもランナーを進められることです。僕も、ランナーが進められないよりは進んだ方が得点のチャンスへ繋がると考えています。
そして、そのメリットを知っているが故に、ファンの中では、選手がランナーを進められずにアウトとなった時に「進塁打を打てなかった」選手を批判する様が散見されます。
ただ、よくよく考えてほしいのです。
同じようなシチュエーションで、相手バッテリーが考えることは、原則その逆ではないか?と。
2ストライクまで追い込んだ時、右打ちを意識しているバッターに、堂々とアウトコースへ投げるバッテリーがいるでしょうか?(いるかもしれないけど)
そうなった時、無理やり右打ちをして進塁打にすることが正しいのでしょうか?
ちょうど、いい動画があったので、ここに載せておきます。
【アカイバ対談#7】落合監督編(2)「収穫は井端のダブルプレー」の真相 https://youtu.be/Aaw5SOOTJOQ
この動画は、中日ドラゴンズでプレーされていた井端弘和氏が、ある試合で併殺打となるサードゴロを打ったことに対して、当時監督だった落合博満氏から「収穫は井端のサードゴロ」と言われたことについて語られております。
動画の中で井端氏は落合氏から「(井端は)ランナーが一塁に居ると最初から右打ちしか考えていないので、相手バッテリーからすると楽」という趣旨の指摘を受けたと語っております。
結局、進塁打を打つことが目的となってしまうと、仮にランナーを進められたとしても、相手バッテリーにアウトを簡単に取らせる術を身につけさせてしまう可能性が上がってしまうのです。
また、「ワンアウト一塁」と「ワンアウト二塁」を比べたら、後者の方がいいだろ、という意見はもっともですが、ならば「ノーアウト一二塁の方がいいじゃん?」という話でもあります。
バッターが進塁打を打つことだけに必死になってしまうと、「ノーアウト一二塁」を生み出すシチュエーションが減ってしまいます。
そのため僕の考えとしては、結果的に進塁打になればラッキー、くらいのイメージで居るのが理想的で、進塁打を目的にすることで他の得点チャンスの方法を潰えさせないことの方が、目的に据える優先度としては高くなるのでは?と思います。
◆ 石井琢朗氏の言葉を正確に理解する
現在は横浜DeNAベイスターズのコーチとして、各所から絶大な信頼を寄せられている石井琢朗氏が、かつて広島東洋カープのコーチ時代の指導についてインタビューを受けている記事があります。
貧打を変えた石井琢朗コーチの教え。カープ打線は7割の失敗を生かす|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2017/09/22/___split_73/
石井琢朗氏も、ランナーを進めるバッティングを意識することの重要性を解く識者のお一人ですが、一方で、それありきになってはいけない、という考えもお持ちの方です。
インタビューにもある通り「後付けでも構わない」という発言には、「進塁打を打つことが目的になってしまわないように」という意図があるのでは、と推測できます。
進塁打を評価するファンの中に、「右打ちをしなかった」ことを指摘するファンも多く存在します。ただ、進塁打の目的を掘り進めていけば「同じアウトになるなら、ランナーを進められた方がいい」という思想に基づくものであり、ボテボテのサードゴロでも、深いファールフライであっても、ランナーを進められたらOKではないでしょうか。
であれば、「しっかりスイングする」だったり「必ずバットにボールを当てる(三振しない)」こと自体が目的になるのでは?と僕は思うのです。(そもそも、右打ちを成功させて併殺打になるシチュエーションもゼロではないし、そういう人が右打ちゲッツーに「なんでそのゾーンを右打ちするんだ」って言っているのを見ると辟易しますね……)
もちろん、シチュエーションによってはランナーを進めるバッティングはとても重要になりますが、1回表のノーアウト一塁でめちゃくちゃ打ちやすそうなボールを擦って進塁打にすることが「成功」にならないような空気作りが必要になってくるのではないかなと。特に、貧打のチームほどこの辺りの意識は重要なのでは?と感じます。
◆ 何事にも意味があることを忘れないように
ところで、僕が現役選手の中で最も大好きな選手である前田大和さんは、ファンから得点圏の鬼、と評される勝負強さの持ち主です。
ただ、メンタルが強いからチャンスに強いのではなく、配球を読み、狙いを絞っているが故の勝負強さであることは、本人のインタビューからも推測できます。
「パパは大谷選手と対戦したことあるの?」FA移籍から5年、DeNA大和35歳が「(現役生活)まだまだ先は長い」と語る理由
https://number.bunshun.jp/articles/-/855402
ファン目線で見ると、「大和は得点圏に強い」というよりは、「得点圏になると、大和が得意なゾーンにボールが来やすい」のでは?と思っています。
データで見るとそこまでではありましたが、タイムリーを打っているシーンをいくつか見ていると、外角の半速球(スライダーやカット、チェンジアップ)系やインコースをうまく打っている印象がありました。
印象的だったのは、2022年の阪神とのCS2戦目。
【チャンスに強い】大和選手明日に繋ぐ、意地の一打!|2022.10.9の注目シーン
確か、追い込まれていた展開だったと思いますが、構えがインコースに入った時「打つぞ!」と思った記憶があります。そして、その通りに大和選手が打って、テレビの前で歓喜した記憶もあります。
【DeNA】大和が同点タイムリーも逆転ならず延長10回引き分け<9月8日 DeNA 対 阪神>
また、過去の一戦でも、インコースに構えた球が中へ入って来たところをタイムリーにしたシーンがありました。
この二つの動画を見ていて
・相手が左ピッチャー
・1点が重要な場面
・けど2点目は取られたくない
・大和選手は長打のない選手
という情報を元に推測したのは、アウトコースを右打ちされて最悪2点返るより、インコースを引っ張られて1点で済む方がマシ、という理論で相手バッテリーは配球したのではないか、ということです。
もしそれが正しければ、大和選手はインコースに狙いをつけていたため、入ってくるボールに反応できた、ということになるのでは?と思っています。
進塁打の話に立ち返りますが、その状況や選手の調子、展開を見た上で、選手の打った打球に想いを馳せてみると、結果が出なかった凡打にもなにか意味が見つけられるかもしれません。
批判することはダメではないですが、その前に一度、凡打の意味に立ち返るのは如何でしょうか?