櫻坂46「Start over!」についてなんとか語ってみた

※これは2000%私見です

ハンターハンターはすごく知ってるけど櫻坂のことは欅坂と間違うくらいの知識しかない友人に読んでもらえるよう考えてまとめました


◆この曲を知るための前提情報

start over、日本語に訳すと「やり直す」。

曲を聴くとわかるけど、その訳のように「今からでも遅くないからやり直そうぜ!」というメッセージが全体的に込められている。

 


では、どうしてこんなメッセージの楽曲が、櫻坂46の6枚目としてリリースされたか。

 


それは、欅坂46時代まで遡る。

 


◇デビュー曲「サイレントマジョリティー」の存在

欅坂、そして櫻坂を語る上で、2016年にリリースされたデビュー曲「サイレントマジョリティー」という楽曲の凄さを知らずには語れない。ただ、CDの売り上げは欅坂の中でも決して高い方ではない。だが、長期間にわたり高いチャートアクションを見せ、アイドルの楽曲では中々伸びづらいYouTubeやストリーミング媒体での再生回数が高かったことに、サイマジョの人気が証明されている。

 


同曲のYouTubeの再生回数は約1.8億回。デビュー曲の大ヒットは、AKB48乃木坂46など、その時にアイドル界の第一線で活躍していた先輩アイドル達でもなし得なかった快挙だ。

ちなみに、YouTubeの再生回数を元に比較すると、AKB48の代表曲の一つ「恋するフォーチュンクッキー」が約2.3億回で、乃木坂46の代表曲の一つ「インフルエンサー」のyoutube再生回数が約8400万回。

また、他アーティストで、人気漫画のアニメタイアップがついていた、近年の「ヒット曲」をいくつかリストアップすると、

 


・YOASOBI「アイドル」約3.3億回

・Eve「廻廻奇譚」約3.2億回

・LiSA「炎」約3億回

・YOASOBI「怪物」約3億回

・Aimer「残響散歌」約1.8億回

・Ado「新時代」約1.4億回

・LiSA「紅蓮華 THE FIRST TAKE.ver」約1.3億回

official髯男dism「Cry Baby」約1.3億回

・米津玄師「KICK BACK」約1.2億回

official髯男dism「ミックスナッツ」約1億回

・Ado「逆光」約1億回

 


ここ一年以内でリリースされた楽曲と、7年前にリリースされたサイマジョの単純比較は出来ないが、「サイレントマジョリティー」という楽曲が、ファンの絶対数以上に知れ渡っている証明にはなるはずだ。

 


「笑わないアイドル」として痛烈なメッセージを世に放ち、大衆の共感を得て第一線を駆け抜けた欅坂46。絶対的センター、平手友梨奈の圧倒的な魅力と、アンバランスでありながらどこか統一感のある、唯一無二のパフォーマンス。

欅坂46の物語は、本当に『漫画』のようだった。

 


◇魔曲「不協和音」の誕生

サイレントマジョリティー」のリリース後、アイドルらしさのある楽曲「二人セゾン」もスマッシュヒットし、紅白歌合戦にも出場。名実ともにトップアイドルの座を手に入れた欅坂46に異変が生じたのは、2017年にリリースされた4枚目シングル「不協和音」のリリースがきっかけだった。

 


サイレントマジョリティー」以上のセンセーショナルな内容。『支配したいなら僕を倒してから行けよ!』と、聴くものを焚き付ける歌詞は、まるで漫画の主人公の立ち振る舞いそのもの。サイマジョ以上の強い楽曲が生まれ、YouTubeでの再生回数が約9400万回に到達するヒット曲となった。

 


だが、この頃から欅坂46の歯車は狂い始める。

 


ファンが知るところで大きな事件を一つ挙げるなら、同年の握手会にて、平手友梨奈柿崎芽実(当時、けやき坂46として活動)のレーンに、発煙筒をつけた男が乱入してきたことだ。

もちろん、この事件はきっかけの一つにしか過ぎないのだが、それ以降、センターの平手友梨奈は心身の不調を抱え、ライブやTVパフォーマンスを休まざるを得ない状況となる。

 


トドメを刺したのはその年の年末、紅白歌合戦のパフォーマンスでのこと。

楽曲終了後、平手友梨奈を含めた3名のメンバーが体調不良を起こし、倒れる瞬間が放送された。

 


そして、紅白歌合戦終了後、絶対的センターの平手友梨奈が「グループと距離を置きたい」と、実質的な卒業・脱退の申し入れをしたのだった。

 


この一部始終は、彼女達のドキュメンタリー映画「僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46」にて、より詳細に語られている。興味のある方は是非見てほしい。

 


◇「黒い羊」に込められた【絶望】

2018年の活動は、リリースされた楽曲のセンターを平手友梨奈が務めたものの、パフォーマンス披露の際には違うメンバーがセンターを務める機会が増えてきた。

2017年、前述の不調もあって平手友梨奈が不在の中でパフォーマンスをする機会は何度か訪れたものの、メンバーの間では彼女が居ないことによる『欅坂46』の価値の喪失へ直面しているように見えた。

2018年の欅坂46はそれぞれのメンバーの決意により、平手友梨奈がいなくても成り立つ『欅坂46』の世界観を作りあげ始めていたところではあったのだ。

ライブは圧巻のパフォーマンスが多かったものの、世間に見てもらえる機会はなかなかなく。そんな中でTVパフォーマンスとして印象に残ったものが2018年の年末、ミュージックステーションにて披露した「アンビバレント」だ。

この年、平手友梨奈はステージ上から落下して怪我をするなど、一年を通じて万全な状態でパフォーマンスを出来る状態にならなかった。そんな中、センターを担った鈴本美愉のパフォーマンスは、ファンの中では「平手がセンターに居なくても欅坂はやっていける」という期待を持たせてくれた。

 


だが、その翌年にリリースされた「黒い羊」は、歌詞やMVを通して、欅坂46に蔓延している『絶望感』を伝えるものとなった。

 


「黒い羊 そうだ 僕だけがいなくなればいいんだ」

「そうすれば 止まっていた針はまた動き出すんだろう?」

「全員が納得する そんな答えなんかあるものか!」

 


サビの一節はあまりにも痛烈だったが、「不協和音」以降は徐々に固定ファン以外の影響力を失いつつあった欅坂46において、彼女達の表題曲では最も「知られていない」表題曲となった。

MVも、苦しむ人物の姿が次々と映し出されていく。そんな人々を『僕』である平手友梨奈が助けようとするが、「すべてお前が悪い」と言わんばかりに突き離される。それでも『僕』は彼女たちと抱き合うことで救いの光を差し出すのだが。

 


その光は、長く輝くことはなかった。

 


2020年、平手友梨奈は脱退。

さらに、欅坂46としての活動が終了。ラストライブの最後に、「櫻坂46」としての活動開始が発表されることとなった。

 


◆櫻坂46になってからの「苦悩」

2020年、櫻坂46はデビュー曲「Nobody's fault」をリリース。そこから「Start over!」に至るまでは、5枚のシングルと1枚のアルバムをリリースしている。

 


欅坂時代の楽曲は、比較的に自己を肯定しつつ、他者や大人、社会を批判するスタンスのものが多かったが、櫻坂は一転して、立ち止まっている自分を批判しつつ、鼓舞する楽曲が増えてきた。

 


しかし、楽曲の転換は一般層はもちろん、欅坂46の楽曲を求めていたファン層にも深く刺さることはなく、CD売り上げ以外の指標は欅坂46時代から軒並み下がることとなった。

 


加えて、2022年にはこれまでグループをキャプテンとして支えてきた菅井友香が卒業。櫻坂46としての大きな転換点が間も無く、訪れようとしていたところだった。

 


◇「Start over!」は『僕』がリブートする物語

欅坂、櫻坂を通じて、楽曲には『僕』と呼ばれる主人公が明確に存在する。

サイレントマジョリティー」「不協和音」ではまるでレジスタンスの最前線で戦っていた『僕』だったが、「黒い羊」では『僕だけがいなくなればいい』と、自ら白旗を上げていた。

そこからしばらく、『僕』の救済の物語が続く。

 


「誰のせいでもねぇ」(Nobody's fault)

「勝手に絶望してるのは 信念がないからだってもう気付け!」

「やめろって言われても もう今更違う自分になれるわけないじゃない」(BAN)

「黙るってのは敗北だ 言いたいことを言ってやれ」

「殴るよりも 殴られろ」(摩擦係数)

 


ただ、櫻坂46のメッセージ性がある楽曲には、すでに『負けている僕』のメッセージが漂っていた。それは諦めであり、無力感であり、絶望であり。その中でもなんとか這いあがろうとする『僕』が歌われていたものの、立ち上がるまでには至っていなかった。

 


そんな『僕』が明確に立ち上がったのが「Start over!」なのだ。

 


「もう一度やり直そうなんて思うなら今しかない」

「大事なのはどこからやり直すか? そりゃ諦めかけた数秒前」

 


自分のせいじゃない。

自分は変われない。

でも、このままじゃいられない。

 


鬱屈したものが解放された瞬間。それが、「Start over!」には詰め込まれているのだ。

 


◇二人の『僕』の決意と救済の物語

ここは、いろんな考察があるので、私の考察が正しいわけではないことを承知してほしい。

 


その上で、この曲には『僕』が二人存在する、と思っている。

 


そのうちの一人は、MVの1:58に映る、小林由依のことだ。

 


なぜ彼女なのか。

理由は、欅坂46のところで述べた「黒い羊」という楽曲にある。

 


黒い羊のMVの3:06あたりから見てほしいのだが、小林由依が演じる女子高生が転倒するシーンがある。ここは、それぞれが心に闇を抱えている人たちが、希望の光に向かって走り出している(現実から逃げているともとれる)シーンだ。

そんな小林由依のことを、3:09で平手友梨奈が助け、小林由依を他のメンバーたちの方へ行かせるシーンがある。このシーンと、「Start over!」の同シーンが類似していると感じたからだ。

 


小林由依は、欅坂46初期から最前線でパフォーマンスをするメンバーの一人だった。平手友梨奈不在のセンターでは代わりを務める機会もしばしばあり、言うなれば、平手友梨奈の葛藤や苦悩をより近くで見続けていたメンバーの一人だった。

 


先ほど語ったドキュメンタリー映画の中で、小林由依は他のメンバーとは少し違うアプローチで受け答えをすることがあった(内容は見て確認してほしい。誤解されたくないので)。不器用ながらも心優しいメンバーが多かった欅坂において、楽曲に宿る『僕』の精神性が平手友梨奈の次に近いのが小林由依だったかもしれない、と思わせる瞬間が、そこにはあった。

 


故に、「黒い羊」で平手友梨奈小林由依を助け出すシーンは、どこか痛みを感じてしまう。

 


君は先に行け。こちらに来ては行けない。

 


そんなメッセージを感じてしまうようで。

 

 

 

欅坂46の後半は、小林由依の存在がなければとっくに瓦解していただろうとも思う。もちろん、ここでは語っていない他のメンバーの成長やフォローがあってのことではあると思うが、歌唱からダンス、演技まで、ひたむきに成長し続けてきた彼女にしか表現できない魅力があり、チームを引っ張っていく強さがある。

 


そして何よりも、『僕』に近い精神性でありながらも、彼女は『僕』、すなわち『主人公』になれない儚さも持ち合わせている。それは、表題曲やカップリング曲含め、彼女のセンター曲が今まで一曲もないことで証明される。

 


「Start over!」の2番の歌詞がわかりやすい。

 


「それじゃ僕は一体何なんだ? 誰かのこととやかく言えるのか?」

 


1番の歌詞は「君は何か夢とかあるのかい?」と問いかけから始まるため、私は2番の歌詞の『僕』が1番の歌詞で『君』に向けて話をしていたのだろうと推測している。

 


そして、2番の歌詞の『僕』は、そんな1番の『僕』にそう言っているが、自分はどうなんだ?と問いかけている。

その象徴が、Start over!のMV1:58の小林由依である。実質的には彼女を含め、櫻坂を支える欅坂1期生ではないかと思っている。欅坂で培った経験や苦悩を2期生や新しく加入した3期生に伝えつつも、自分たちはこのままでいいのか?という新たな悩みに「今日までずっと持ってたものなんてどうでもいい」と答えを出す物語なのだ。

 


そして、そんな彼女の手を、MV2:10で引いていくのが、1番で登場したもう一人の『僕』である藤吉夏鈴である。2期生、と置き換えてしまっても良いのかもしれない。

 


彼女を含め、2期生の面々は、混沌とした欅坂46終盤に加入をしたのだが、欅坂46として表題シングルを歌ったのは、配信でリリースされた「誰がその鐘を鳴らすのか?」だった。

この曲にMVはなく、また、センターもいない。楽曲は汎用的な平和を謳っているものではなあるが、どこか無力感や喪失感の漂う一曲となっている。そこが「欅坂」らしい。「この世の中に神様はいるのかい? 会ったことない」という歌詞からも、「鐘を鳴らしてもらえなかった」者たちの悲鳴が聞こえてくる様だった。

 


その意味では、櫻坂になって2期生たちに鐘を鳴らすチャンスは何度も訪れた。

欅坂を踏襲しつつも新たな方向性を見せた「Nobody's fault」や「BAN」、アイドルらしさを内包しつつ、儚げな楽曲となった「五月雨よ」や「桜月」、そして、欅坂時代にはない、明確な『僕』たちへの批判的なメッセージが詰まった「流れ弾」。

それぞれ個性の強い楽曲がリリースされたものの、欅坂時代の爆発的な人気を得るには足りないピースがあった。

 


だが、櫻坂46となって2年半、欅坂46とは違い各メンバーが表題曲およびカップリング曲のセンターを務め、フロントに選ばれなかったメンバーもライブではセンターを務める機会を自ら掴むなど、一人一人が『主人公』になれる場作りが出来ていた。櫻坂になってからは個々のメンバーが舞台やCM、バラエティ番組に雑誌のモデルなど、外仕事も格段と増えた。

 


その集大成が、「Start over!」である、

 


今作のセンターである藤吉夏鈴は、過去に2曲、センターを務めた楽曲がある。しかし、表題曲は始めて。ちなみに、櫻坂46には一時期「櫻エイト」と呼ばれるシステムがあり、前列の8名は全ての楽曲に、それ以外のメンバーは楽曲ごとに構成されるというシステムを取っていた。

その櫻エイトと呼ばれるシステムに、2期生では森田ひかる、田村保乃、山﨑天と並んで1stシングルから参加していた藤吉夏鈴だったが、3rdシングルの「流れ弾」にて、櫻エイト落ちを経験している。

 


欅坂46に憧れて入ってきたメンバーが多い中で、櫻坂46になったことへの「迷い」がいるメンバーがいないはずもなく。

その中でも、欅坂の『僕』に近い不器用さを持っていた藤吉夏鈴が櫻エイトを外れたのは、単にパフォーマンスが良くなかったから、という理由だけではないものを感じずにはいられない。むしろ、彼女のパフォーマンスは良いと思っていたくらいなので。

 


「やり直す」という意味の曲を引っ張るためには、そんな経験のある彼女にしか出来なかったのでは、と。欅坂で得た経験はもちろん大事だけど、今はもう櫻坂となって新しい道を進んで行こうとしている。そこに、迷いなく突き進む必要がある。

そのことを、この楽曲は強く歌ってくれているのだ。

 


◆「黒い羊」からの脱却

インタビューやクリエイターの言葉は一切読んでいないので違うのは承知の上で。歌詞やMVの演出からは、欅坂時代の「黒い羊」に似た様な演出が見られる。オフィスに見立てたステージでセンターの藤吉夏鈴が自由に踊ったり、小林由依と抱き合ったりするシーンがあったり。それは、「黒い羊」の平手友梨奈のそれを想起させる。だが、「黒い羊」には救いがない。一方、「Start over!」には共に立ち上がる姿が垣間見える。

 


「君は僕の過去みたいだな」

「僕は君の未来になるよ」

 


この歌詞はまさに、その構図を表している。

「黒い羊」の『僕』として、まだどこかに未練を残していた『僕』の救済と、「Start over!」から新しく生まれ変わって戦い始める『僕』の決意の物語なのだ。

 


◆さいごに

夜中に友人から「この曲の文脈を教えてほしい」と言われ、夜な夜なこの記事を書いてしまっが、全容の1%も語れていない。ので、ちゃんと知りたいと思った方は、まず櫻坂46の公式チャンネルで、フルサイズのMVを全て聴いてみてほしい。可能であれば、ドキュメンタリー映画も見てもらえると、より伝わるものがあるはずだ。

 


色々と述べたが、「Start over!」は以下の物語だと思っている。

 


・主人公になれなかった者たちの「決意」

・抱え込んでいた迷いからの「脱却」

・答えがない未来への「覚悟」

 


それらを全て「やり直してやる!」とゼロから始めようとするのが、「Start over!」の全てだと思っている。

 


ファンとしても、欅坂が好きだと公言してくれていた芸能人が、一部をのぞいて櫻坂になって一言も言及してくれなくなったことにがっかりしたことはある。

欅坂として持っていたバラエティ番組のテンションもお通夜の様で、態度が悪いと炎上することもあった。

かつて「けやき坂46」として活動していた「日向坂46」が、彼女たちにしななかった苦悩を乗り越えて人気グループとなり、一方、櫻坂46は乃木坂、日向坂の後塵を拝する状況にもなっていた。

 


そんなグループを応援し続けながらも、どこか欅坂46の幻影を追い続けていた『僕』たちの「救済」の物語でもある「Start over!」。

 


一人でも多くの人に届いてくれれば、と願うばかりだ。