欅坂46という物語

 

平手友梨奈の脱退。

そのニュースが飛び交う中、「おまけ」のように扱われた、鈴本美愉・織田奈那の卒業、佐藤詩織の活動休止発表に、僕は狼狽した。


平手友梨奈の脱退は、ファンの誰もが覚悟していたことだろう。彼女の脱退に際し、「ここまで頑張ってくれてありがとう」という旨のメッセージを送るメンバーが居たのだから、彼女が欅坂46を出るのは時間の問題だったのだ。


ただ、彼女が抜けた次の欅坂46を引っ張っていく存在として注目していた一人、鈴本美愉の卒業は、衝撃度が大きかった。


ファンなら、鈴本美愉の存在の大きさがよくわかるはずだ。


2018年末、平手が多くの音楽番組の出演を取りやめる中、ミュージックステーションで『アンビバレント』のセンターを務めた彼女のパフォーマンスは圧巻だった。比較は意味がないとわかりつつ…僕は彼女がセンターの『アンビバレント』が一番好きだった。


「てちが抜けても、もんちゃんが居るから」


そう思っていた矢先のこと、彼女は欅坂46を卒業した。

もちろん、彼女も年末の音楽番組に出なかったので、察することはできた。しかし、受け入れるのに時間はかかった。平手と鈴本、両者が抜けたダメージは想像以上だった。

 

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ところで、「欅坂46」のファンの中には一定層「平手友梨奈」のファンが存在する。これ自体は特別なことではない。


ただ「普段アイドルは聴かないけど」という枕詞をつけて欅坂46を語る人で、かつ「平手友梨奈」を好きなファンや、ファンと思われるツイート・ブログ記事などを見かけると、嬉しさはある反面、複雑な気持ちを覚えてしまう。


平手友梨奈」以外のメンバーは、どう映っているのだろうか。


ここからは偏見。

たまに「欅坂46」のロック性を解くファンや記事に出会うと、「欅坂46」のことではなく「平手友梨奈」のカリスマ性を言っているように見えることがある。乱雑に言うと「平手以外のメンバーのパフォーマンスでは伝わらない」というのが、僕の認識だ。


そこに、僕としては違和感がある。

たしかに、彼女には形容しがたい、パフォーマーとしての魅力がたくさんある。僕も彼女のことが好きで、脱退後に芸能活動をすることになっても応援したいと思える存在だ。


しかし、「欅坂46」の世界が「平手友梨奈」だけのものだったとしたら、ここまで多くのファンを獲得出来ただろうか。僕としては、センターとして印象強く君臨する平手を支えるメンバーの存在あって、彼女のカリスマ性が際立っていると感じている。そのことを強く感じた一件がある。


それは2018年末。先述の通り平手は怪我の影響もあり、音楽番組の出演を取りやめた。その間、鈴本美愉小林由依土生瑞穂渡邉理佐がセンターを務めた。


それぞれが違う振り付け。年末の忙しい中、振りが違うだけでも大変だと思うが、センターを務めた4人はいわゆる「フロントメンバー」。平手の代わりを務める彼女たちの「代わり」が必要になる。


そんな「フロントメンバー」の代わりを務めたのが小池美波だ。


平手のかわりにセンターを務めた4人が注目される中、そんな4人の代わりにフロントポジションを埋めた小池のパフォーマンスに、ファンは驚いたことだろう。欅坂46のダンスパフォーマンスは彼女の影ながらの活躍もあり、無事に披露されたのだ。


そう、皆、与えられた場所で必死に輝いている。それがセンターであろうと、なかろうと。

 

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センターが平手友梨奈で固定化されることへ批判があるのは、欅坂46がアイドルグループという体裁を取っており、生きた人間が所属していることによるものが一つあると思う。


ただ、もし「欅坂46」がフィクション、一つの物語として構成されていたとしたら。


平手友梨奈という主人公を筆頭に、彼女を、チームを支えるメンバーが居る、とも捉えられるだろう。


欅坂46は、そういう幻想的な雰囲気を与えてくれた。


ただ、物語から平手友梨奈は退場する。

主人公不在となった欅坂46は、新たな主人公を迎え入れるか、よりアイドルグループに近い色へ変貌するかを迫られているのではないか。


ファンの間でも、次期センター候補への意見は破れている。一期生の小林由依渡邉理佐を推す声は一定層あり、一方で、2019年末のCDTV年越しライブで『黒い羊』のセンターを務めた二期生の森田ひかるや、現在最年少の山崎天も、平手友梨奈の系譜として名前を挙げられる。


ただ、どのアイドルグループでも、絶対的エースがいなくなった後は、険しい道のりが待っている。

そもそも、平手のほかにセンター候補とされた今泉佑唯、長濱ねるが卒業しており、ファン目線では米谷奈々未、志田愛佳といった、チームに欠かせない存在の卒業が今の体制へ大きく影響している、とも考えられている。冠番組を持つ彼女たちだが、バラエティ適性があったメンバーが次々に卒業し、その中の一人であった織田奈那も卒業が決まる。加えて、ダンスパフォーマンスに定評がある佐藤詩織も活動を休止するのだから、状況は芳しくない。


それでも、二期生の加入で幾分か番組は盛り上るようになった。外仕事も増え始め、モデルやラジオ、バラエティ番組からドラマ、映画、舞台まで、活動の幅は広がっている。


そう、『欅坂46』という物語から、各メンバーが解き放たれつつあるのだ。

 

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欅坂46の取り巻く状況を一番分かっているのは、欅坂46のメンバーに違いない。プレッシャーは大きいだろうが、彼女たちは必死に、次のステージへ向かおうとしているだろう。


平手の脱退が欅坂46を呪縛から解き放つ……そんな風に言う人も居るが、僕は逆だと思っている。


呪縛から解き放たれるべきは、ファンの方だ。


ファンをやめるならやめればいい。追い求める欅坂46のイメージが違ってくるのは致し方ないことだ。しかし、それぞれが持つイメージを彼女たちに強要する事は違う気がする。


そして、2020年4月。

彼女たちのドキュメンタリー映画の公開が決定した。


今公開されているPVを見ただけでも、彼女たちの苦悩は感じ取ることが出来た。やはり、彼女たちはそれぞれの場所で戦っている。


欅坂46は、僕たちに「君らしくあるんだ」と教えてくれるが、それと同時に「今居る場所で頑張る」難しさも教えてくれている。その難しさはいくつ歳を取っても、変わらないものだ。


もし、今の今まで、「平手友梨奈」を通じて「欅坂46」を見ていた人が居たら、すこしだけ、「欅坂46」に目を向けて欲しい。すると、彼女たちの魅力が、そして、「平手友梨奈」の存在の大きさが、今までよりも強く、わかるはずだ。