2023年の大和と、大和の幻影を追いかける彼のファンへ

2022年。

前田大和というプロ野球選手は、未だ横浜DeNAベイスターズの正遊撃手として君臨していた。

 

勝負強い打撃と、安定感のある守備力で地位を築いてきた大和は、シーズンオフに持病があることを告白。一方、チーム内での信頼は厚いようで、自主トレにはチームの顔である牧秀悟選手だけでなく、益子京右捕手が加わった。

オープン戦でも勝負強い打撃は健在。ファーストの守備をこなすユーティリティ性も見せ、今年も大和の存在はチームにとって大きくなると予想される。

 

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大和はインタビューで多くを語らない。故に、他の選手から伝えられる大和のエピソードや評価には、ファンとしては常々振り回されている。

ただ、今の僕が、今の大和の好きなところが何かと問われたら、「多くを語らないところ」なのかもしれないと思ってしまう。

 

昨年の大和はプレー以外でも注目されることが多かった。

ヤクルトとの試合で、相手ベンチからの野次に応戦したり、CSでの一戦では逆に野次をあげたと批判されたり。

その姿を「野球選手としてどうなのか」という論調があるようだが、僕の中では、むしろあの感情が「前田大和」という存在なんだろうなと強く理解した。

特に、CSの一件では関根大気選手がフォローするツイートを発したことも踏まえると、言い方はともかくチームとしては、大和の強い感情が伝わっていたのではと類推される。

 

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大和ファンははっきりいって、めんどくさい人間が多い気がする。

 

年間でホームランは打てて1.2本。

昔ほど走れなくなり、守れなくもなった。

勝負強いとはいえ、3割は超えない程度の得点圏打率

 

そんな選手を応援する理由は。

 

「理想の姿になれなかった自分」を投影しているからなのかもしれない、と。

 

類稀なる守備センスを持ちながら、野球選手としては非力な体格でパワー面で苦戦し、内外野をたらい回しにされた日々。器用貧乏で終わりかけた野球人生はDeNAへの移籍によって持ち直しはしたが、長くは続かなかった。

 

要は、大和が活躍してくれることで、どこか不完全な自分が報われる気がするのだ。だから、2019年のようにショートでレギュラーを張った大和を自分のことのように嬉しく思えたし、ショートでゴールデングラブを取らずに現役を終えるであろう事実に打ちひしがれてもいる。

 

そして、現実と同じように、思うようにいかない大和の姿に怒り、呆れるのは、おそらくそれが、燻って天に唾を吐いている自分に返ってきているから。

 

そんな気がしてならなかった。

 

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ただ、大和は常に、大切なことを教えてくれている。もちろん、多くは語ることはない。強いて言うなら、規則正しい生活が大事だと言う。

 

結局のところ、全てにおいて正しいも間違いもなく、数字的な理想は個人の目標でしかない。ファンが理想を押し付けていることが、そもそもの間違いだった。

 

大和は、自分の野球人生が残り少ないと言う。

それなのに、昔は守備がうまかったのに、とか、もっと冷静に振舞ってほしかった、とか、僕は大和に理想を抱き続けていた。

 

それは、もうやめにした方がいい。

それでは、僕が応援しているのは、「過去の大和の姿」でしかないのだから。

 

過去のブログでは、ゴールデングラブ1000本安打を目指して欲しい、と書いたことがある。その時の本心ではあるが、今は違う。

 

前田大和という野球選手が、全てをやりきるまで。

ただ、その勇姿を焼き付けたいと思う。

 

そして、僕と同じような幻想を抱いていた彼のファンが、夢から覚めることを願っている。

 

最後まで追い続けるのも、ここで追うことをやめてしまうのも、ファンの特権だ。

ただ、前田大和という、大和ファンにとってかけがえない存在のノイズにはなってほしくない。

 

それだけを切に願い、大和と今年のDeNAベイスターズの活躍を期待しようと思う。

 

いい夢を、ありがとうございました。