2021年前半戦の前田大和選手を振り返って咽び泣くオタク

 


一人の、前田大和選手を応援しているファンとして。


「あ、今年で終わってしまうのかもしれない」


そう思ったファンも少なくないのではないでしょうか。


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プロ野球が開幕してしばらく、チームの低迷に連動するように、大和選手は攻守に精彩を欠いていました。


昨年、規定打席には届いていないものの、自己最多となる4本のホームランを放つなど、バッティング面では「守備の人」という過去の印象を変える活躍を見せていました。しかし今シーズン序盤は、弱い打球が二遊間に飛んでいく凡打ばかり。

さらに、チーム方針もあって減量してシーズンに入ったにも関わらず、求められていたスピード感のあるプレーは影を潜め、守備では送球やフライ捕球の不安定さが目立ちました。


4月下旬には、セカンドを守っていた柴田選手と交錯。柴田選手が故障で離脱してしまうのですが、当時結果を残していた柴田選手が欠けてしまったこと、大和選手が結果を残せていなかったことが重なり、ファンのヘイトが大和選手へ向けられていくのをひしひしと感じていました。


正直、この時期は見ていられませんでしたね……。阪神時代から、一度トンネルに入るとなかなか抜け出せなくなるタイプの選手だとはわかっていましたが、今回の様子は今までと明らかに違っていました。今までは打てなくても走塁や守備でカバー出来ていましたが、今年は走塁・守備ともに今一つ思い切りがないように見え、それが次のミスへ繋がっているようにすら感じていました。


こんな姿を見続けるならいっそ試合に出てほしくないと思うほど、大和選手は結果を出せないままだったのですが、5月に入ると倉本選手がプレー中に負傷。調子の上がる兆しは見られないまま、大和選手はグラウンドへ立ち続けました。


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そんな大和選手の苦悩が垣間見えたのは、5/21のヤクルト戦。大和選手は9回に勝ち越しのタイムリーツーベースを放ち、ヒーローに選ばれます。その試合後、球団の広報動画にて大和選手が勝ち越しの一打を振り返ってポツリ、言葉をこぼします。


「救われました。自分も含めて」


チームは5連敗中。そして、その試合では失点につながるエラーをしていた大和選手。チームを、そして大和選手自身を救う一打は、これまでの憑き物が取れていくような、大切な一打でした。


ここから少しでも力強いバッティングが戻って来れば。ささやかな願いを抱いていましたが、それからまもなく。

大和選手は驚くべき活躍を見せるのです。


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今年の交流戦。チームは3位に入る活躍を見せます。ちなみに、ベイスターズ交流戦で9勝をあげましたが、大和選手は「3度」も、チームを勝利に導くバッティングを見せました。


楽天戦、実績のある涌井投手から放った逆転のスリーランホームラン。


ホークス戦、同点に追いつかれ嫌なムードが漂う中で生まれた勝ち越しのタイムリーツーベース。


そしてロッテ戦。

日程上の都合で、横浜スタジアムでの前半戦の試合が最後となる大事な一戦で放った、サヨナラタイムリー。


DAZNで解説していた佐伯貴弘さんが「得点圏の鬼を超えて、神」と評するほど、得点機に異常なほどの勝負強さを見せた大和選手は、序盤の戦犯扱いから一転、チーム躍進の一翼を担ったのです。


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今年の大和選手を語る上で、必ずと言っていいほどついてくる言葉が、「チーム最年長」でした。

しかし、その言葉で片付けてしまえるほど、大和選手の感じていたプレッシャーは小さくなかったのでは、と推測されます。


三浦大輔監督が開幕直前に発売された雑誌のインタビューにて語っていた、「開幕一軍が内定している野手」の中に、大和選手は選ばれていました。

他は、キャプテンの佐野恵太選手、宮崎敏郎選手だけ。成績だけで判断すると大和選手は他の2選手よりは劣りますが、経験やユーティリティさを含め、大和選手は監督からの厚い信頼を得ていました。


さらに、大和選手の名前が本人以外の口から語られることも多くありました。

牧秀悟選手のコラムでは、バッティングに悩む牧選手に対して「牧、変えんなよ」とパワーワード……ではなく、アドバイスを送っていたことが語られました。あの低音ボイスでそんなこと言われる牧くん羨まし……いえ、自身の調子が悪い中でも、牧選手の悩みに応える大和選手の姿は頼りになる先輩そのもので、シーズン通して、牧選手と大和選手の関係はより深くなっているように感じています。


また、佐野選手と対談した石川雄洋選手はいろんな人とたくさん話をしたらいい、というアドバイスの中で「大和とか、先輩もいっぱいいるんで」と名前を出してくれたり、ネフタリ・ソト選手もインタビューのなかで大和選手の名前を挙げてくれたりして、チームの中では特別な存在となっているのかな、と思っています。


(ファンとしては不思議な気持ちになることもしばしば……だって、去年退団したホセ・ロペス選手と大和が仲良かったなんて知らなかったもん……あの人自分の話は全然しないから……。まったく。)


自身のコラムでのインタビューでは、桑原将志選手を気にかけている様子でした。先日受けていたインタビューの中でも、仲の良い選手として大和選手は桑原選手の名前をあげていたことから、良い関係性が築かれているようでした。


プレー中も例年以上に投手への声かけを行なっているように見えており、頼もしさ、は行動や評価にしっかりと現れています(ピンチの場面で投手に声をかけた後、大和選手の方に打球が飛んでかつアウトにする感じかっこいいですよねわかりますよね)。


例年にないプレッシャーや、加齢に伴う体調の変化が序盤の不振に繋がっていたようですが、バッティングについては復調し、前半戦は打率.255、打点は現時点で去年と同じ23を稼いでいます。

今年の打撃成績で特筆すべきは、得点圏打率の高さ。通算で見ても、通常の打率より得点圏打率が3分ほど高い大和選手ですが、今年は.408(49-20)と非常に高く、チャンスで打ってない時の方がおかしいと思うレベル。一時は「得点圏になるとオースティンになる」と言われることも。

一方、年々守備範囲やスローイングの不安定さを指摘されるショートの守備については、いよいよ限界が来ているのでは、とも。

特に、今年は球際に弱くなっている印象で、前半戦の最後にショートでスタメン出場していた森敬人選手の守備を見ると、範囲や肩の強さ、スピード感に大きな差を感じました。

もちろん、これを「守備が下手になった」なんてファンは言いたくないのですが、衰え、というものは避けられないもの。個人的には、阪神時代にショートを守っていた鳥谷選手の守備に翳りが見えてきた時期を思い出しましたね。


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ただ、いつかの試合で解説の佐伯さんが大和選手を「チームのお兄ちゃん」と評していたように、大和選手は成績以上の存在になっているようで。


あのサヨナラの試合は、その集大成でした。


サヨナラタイムリーを打ったバットにあやかろうとする若手選手たち。そして、大和選手の体を抱き抱える助っ人選手たち。特にタイラー・オースティン選手は、その日打席で腰を痛めた素振りを見せたので心配していましたが、「大和を抱き抱えるくらいなら大丈夫やろ」と思うくらいに喜びを爆発させていました。


大和選手が「精神安定剤」と語る田代コーチの存在も大きいようで。チャンスになると一時期はベンチに居る田代コーチがカメラで抜かれ、本当に打っちゃうのがすごかったです。佐伯さんに「恋人が見てますよ」と言われてたのは少し草が生えましたけど笑


ただ、僕の中で一番心が動いた一打は、交流戦後の広島戦でした。負けが濃厚になっていた試合で、9回に猛反撃を果たしたベイスターズ。10-12となり、二塁に楠本泰史選手を置いて、相手投手は今シーズン抜群の安定感を誇っている守護神、栗林良吏投手でした。


その打席の中で放った、ホームラン未遂の一打。ベンチも喜びかけた特大ファール。

あの一打に、僕は心を揺さぶられました。


しかも、その後しっかり粘ったのち、三遊間をしぶとく破るタイムリーを放ち、ベンチに視線を送る大和選手がめちゃくちゃかっこよくて。その試合、負けてはしまいましたが、こんな試合を見せられて応援しないわけがなく。


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初めて大和選手に言及したブログを書いたのが去年。モデルチェンジを果たし、息の長い選手になってくれるのでは、と思いつつ、レギュラーとして活躍するのは去年がラストだろうな、と思っていたのですが。

まさか、その期間が延びるとは、ファンとしては夢にも思っていませんでした。


しかし、レギュラーとして活躍を拝めるのは、今年が最後のシーズンでしょう。

セカンドには牧選手が、ショートには森選手が居るベイスターズは、きっと強くなります。センターにも桑原選手が返り咲き、キャッチャーでは山本祐大選手が第二捕手としての座を獲得しようとしています。

新戦力の台頭はチームとしては嬉しいですが、新しい戦力が増えるということは、同時にその枠が奪われるということ。大和選手も、今は「レギュラー」ではなく、「ユーティリティ」として試合に出場している、そして今のチーム状況だから、スタメンとして出場している……のだと思っています。


でも、何故かホッとしてもいて……。大和選手がベイスターズに必要とされる選手となった喜び、そして、若い選手にも慕われている様子が、その喜びを加速させています。


とはいえ、ショートでゴールデングラブを取って欲しい……という願いは、おそらく叶わないと思います。ただ、今は別の「達成して欲しい」目標が出てきました。


それは「1000本安打」です。


現在、大和選手は807本のヒットを放っています。残り193本になったこの記録は、難しい数字ではありますが、決して不可能な数字でも無いと思います。

現役をどこまで続けられるか、という要素も絡んでは来ますが、これまで守備力を買われて活躍してきた選手と違いがあるとすれば、バッティングにも魅力があるということ。

球種を絞って打てること、勝負強いバッティングは魅力で、年々長打を打てるようになっている点から、代打として起用される可能性もゼロではなくなってきました。さらに、全盛期ほどではないとはいえ、走塁や守備力は決して低くありませんから、代打として出場した後も試合に出続けられる力を持っています。そして、大和選手の持つ守備の巧さは確実に若手の選手へと引き継がれて欲しいものなので、牧選手や森選手のコーチとしての役割を考えれば、まだまだ大和選手の役割はたくさん残っているのです。


さいごに。

色々書いてきましたが、ホントに、本当に、4月5月は応援していて辛かったです。

移籍して3年間、初年度こそ思うような活躍は出来ませんでしたが、2年目にはショートとしてほぼ全試合に出場し、規定打席にも到達しました。昨年は先ほども書いた通り打撃で結果を残し、選手寿命が着々と伸びているなぁ……と思ったら……だったので。

だから、交流戦バチバチに打っていた時はとても楽しかったですし、交流戦が終わってからも、打率.250近辺をうろうろしているので、ひとまずホッとしています。


後半戦は、森選手がショートを守る機会が増えそうな反面、起用法が多岐にわたる予感もしています。もしかしたら、外野手として出場する、なんてこともあるかな……と。


ただ、言えることはひとつ。


チームの力に、いつまでもなっていてほしいな、と。

そして、いつまでも、楽しく野球をしていてほしいなと、一ファンとして願うばかりです。